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     秋田経済同友会の令和2年新年交歓会が1月28日、秋田ビューホテルで開かれ、会員44人が出席した。交歓会に先立って開かれた特別講演会では、日本銀行秋田支店の村國聡支店長が「世界経済と我が国経済の動向」と題して講演、中国をはじめ、米国、欧州と日本の現状と先行きのリスクなどを指摘した。
     講演の主な内容は以下の通り。

    回復の年になることを祈念
    特別講演会 演題:世界経済と我が国経済の動向
          講師:日本銀行秋田支店の村國聡支店長

    Ⅰ.世界経済の概況

     

    日本銀行秋田支店 村國聡支店長

     世界経済における製造業部門の現状は、PMI(購買担当者景気指数)をみると2019年に改善の兆しをみせている。また、IMFの経済見通しは19年に減速した後、20年以降は好況とまではいかないが、緩やかに成長率が回復する見通しとなっており、日本を含め、全体として大崩れはしないとみている。
     米中貿易交渉については、米国が昨年12月15日予定の対中追加関税(第4弾、12月実施分)を見送り、中国も対米追加関税の実施を見送った。大統領選までは一旦休戦となり、追加関税等の大きな動きはないとみている。
     先進国の金融政策は、インフレ率が低位にある下で、本年中は利下げ・利上げともなく横ばいとの見方。他方、新興国はインフレ率が以前より落ち着いている下で、追加の利下げ余地がある状況。

    Ⅱ.中国経済

     昨年は米国への輸出が減少したが、今年に入って持ち直しの兆しが出てきている。小売売上高をみると以前よりは伸びが下がってきているが、個人消費は比較的しっかりしている。もっとも、足もと新型コロナウイルスの感染が急速に広がっており、この動向次第で大きく落ち込む懸念もある。昨年大きく減少した自動車も、2015・2016年の販売増の反動減や排ガス規制の影響が落ち着いてくる中で、少しずつ回復の方向に向かうのではないか。世界経済の回復を占ううえで、市場規模の大きい中国の自動車販売が持ち直すかが、今年のポイントになる。
     なお、日本のバブルの教訓もあり、中国当局は過度な不動産投資を警戒しており、不動産の投機的な動きに対し、抑制姿勢を示している。一方、本年6%を達成すれば所得倍増の計画を達成できることもあり、当局は成長率6%に向けたこだわりも有している。このため、投資拡大に向けて、地方専項債に係る規制を緩和したり、預金準備率の引下げやLPR(最優遇貸出金利)の見直しなどの貸出増に向けた金融緩和を実施したりしている。ただし、新型コロナウイルスの影響次第で、目標達成は難しいかもしれない。

    Ⅲ.米国経済

     米国経済の現状をみると、昨年、関税により中国への輸出が大幅ダウンするなど、ダメージを受けている。しかし、足もとは部分合意により改善の方向へ向かっており、今後、輸出についても反転の動きが出てくるのではないか。一方、個人消費はクリスマス商戦を含めて非常に良かった。GAFAの好業績等に支えられ米国企業の収益が好調な下で、米国民は、米中貿易摩擦がある中でも米国経済の先行きについて楽観的にみており、消費者のコンフィデンスもしっかりとしている。
     大統領選では、経済、医療費、移民、雇用、気候変動、貿易などのイシューが取り上げられるが、雇用の改善が進む下で、有権者は、民主党に有利な医療費や気候変動への関心を高めている。こうした中、世界で温暖化が進んでいることを否定していたトランプ大統領も、先日のダボス会議では「大規模な植樹を進める」と発言するなど、環境に配慮した発言を行っている。

    Ⅳ.欧州経済

     ユーロ圏では、中国における自動車販売減少のあおりを受け、製造業のウエイトが高いドイツが厳しい。ただし、中期的に生産年齢人口が減少する下で良好な雇用環境が保たれており、サービス・消費はなお堅調。なお、欧州は財政均衡に対するこだわりが強く、ドイツではGDPが一時的にマイナスになる状況でも、なおメルケル首相やドイツ連銀総裁などは財政支出の拡大に慎重。

    Ⅴ.日本経済

     日本経済は、国内需要を中心に緩やかな回復が続いている。海外経済減速の影響が続いてきた製造業においても、ITセクターで持ち直しの動きがみられる。
     ITサイクルの進捗により、電子部品の在庫水準は改善の方向にあり、新型スマホ向け需要や5G関連・データセンター投資の回復により、下半期には在庫水準は適正化に向かうとの見方が大勢。足もと台湾のTSMCが絶好調であるなど、大手半導体企業の売上予想も、昨年秋頃から上方修正が続いている。
     他方、自動車販売は米国市場が微減であるほか、中国・インド市場の減少が続く下で、足もと日本からの自動車関連の輸出も大きく減少している。今後、新型コロナウイルスが収束した後、自動車関連が回復に向かえば、製造業も全体として回復の動きが拡がることになる。
     設備投資は、機械投資の伸びは弱いが、研究開発・ソフトウェア投資が増えており、全体として堅調。東京五輪後に建設投資が落ち込むとの見方もあるが、耐用年数が過ぎた建物の建て替えが必要となる中で、都市再開発案件が相応にあり、オリンピック後も大きな落ち込みはないとみている。また、公共工事関連は、昨年末の政府の経済対策もあり、先行き伸びが期待できる。
     個人消費は、実感はあまりないもしれないが、緩やかな増加が続いている。消費税率引き上げ前後をみると、自動車の特殊要因で耐久財が落ち込んでいるが、非耐久財はそれほどダウンしていない。車は一部車種の供給制約もあって、落ち込みが大きいが、家電ではパソコンや大型テレビなどが売れており、回復傾向。スーパーやコンビニは足もと横ばいで推移。家計のネット負担増は、前回2014年の増税時の4分の1程度に止まっており、消費税率引き上げによる駆け込み需要の反動減は、前回ほど大きくないとみている。
     個人消費を支える雇用所得環境をみると、雇用は、海外経済減速の影響により製造業を中心に新規求人数が減少したものの、有効求人倍率の水準は依然として高く、総じて人手不足の状況が続いている。他方、賃金をみると、パートは最低賃金の上昇により比較的高めの伸びを示しているが、正社員の賃金の伸びが低めに止まっており、消費の伸びが弱い一因となっている。消費の関連では、インバウンド消費も心配。韓国からの入国者数減少に加え、足もとは新型コロナウイルスの影響により中国も激減し、インバウンド消費の落ち込みが懸念されている。中国人は一人当たりの消費額が大きく、首都圏の百貨店などの売り上げは大きく落ちるとみている。
     最後に、物価は、需給ギャップが改善している下でも、なかなか上昇しない。こうした背景には、潜在成長力のTFPの部分、わが国企業の技術革新の力が落ちていることがある。実際、自動車・電機で最近明るい話が少ない。EV向けの高効率電池や自動運転のECUなどの分野でトヨタやパナソニックが世界標準の地位を確立できれば、今後大きな成長が期待できるが、米国や中国との競争は熾烈で楽観はしていない。

    Ⅵ.先行きのリスク

     先行きのリスクとしては、世界的な企業債務の積み上がりが挙げられる。米国企業の社債残高をみると、足もとトリプルB格の発行が増えている。リーマン・ショック発生前との比較でも、企業の収益に対する債務残高の比率が高い一方、企業が支払う金利は逆に低下しているので大きな経済ショックへの耐性が弱まっている。
     また、現在は、海外経済減速による製造業の弱さが非製造業に及ばないデカップリングの状態にあるが、今後、製造業の回復にさらに時間がかかるようであれば、非製造業にも影響が及び、世界経済が後退局面に入るリスクがある。新型コロナウイルスの影響が比較的早期に収束し、本年が回復の年になることを祈念している。

    新年特別講演会 会場風景
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