ここ3年余り、常に人々の心の中に暗い影を落としていた「新型コロナ」が話題に上ることがめっきり減り、代わって「株価」や「金利」、「円安」といった経済関連話が目立ってまいりました。パンデミックから解き放たれ、世の中がようやく平常を取り戻りつつある証しなのでしょう。
しかしながら、平常には戻っても、平穏な日々が戻ったかというと、どうでしょうか。元日早々にマグニチュード7・6という大規模な能登半島地震が発生し、甚大な被害が出ました。松島と並ぶ景勝地だった九十九島が一夜にして陸続きになった、220年前の象潟地震を想起させるような大規模隆起も衝撃的な光景でした。日本列島は多くのプレート境界域に位置しており、私たちはいつ何時、巨大地震に遭遇するか分かりません。津波による多数の犠牲者を出した日本海中部地震から一昨日で41年が経過しましたが、能登半島と本県沖の海底の地質の類似性も指摘されており、万一に備えた高い防災・減災意識が必要です。
昨年7月中旬には、記録的大雨による河川氾濫と内水氾濫で、秋田市中心部が水害に見舞われました。住宅を失った方も多く、苦悩はいまだに続いております。こうした災害リスクに加え、昨年来、県内では人里にクマが頻繁に出没し、多くの地域で日常生活が脅威にさらされています。自然界に何らかの異変が起きているのは誰の目にも明らかであり、こちらも警戒は怠れません。
先ごろ、「人口戦略会議」が公表した推計値も、多くの県民に言い知れぬ不安感をもたらすものとなりました。2050年までに、20~39歳の若年女性人口が半数以下になる自治体が全国で744に上るとのことです。秋田県では秋田市を除く24市町村が該当し、将来的に「消滅可能性」があると指摘されました。また、国立社会保障・人口問題研究所は2050年の本県人口を56万人と推計しています。秋田の持続可能性を考える上で、いずれも衝撃的な数字であります。
行政もこれら諸課題にさまざまな手を打ってはおりますが、県民の間からは「なかなか明るい展望を見いだせない」との嘆きも聞こえてまいります。
こうした局面を迎えて、私たちは、だんまりを決め込むわけにいきません。経済人ならではの柔軟な発想と行動力で、県民に希望や元気を与えられる存在にならなければなりません。「消滅可能性」などといった言葉を払拭するような気概を示したいものです。
秋田経済同友会は平成6年に、全国40番目の経済同友会として誕生し、今年で創立30周年を迎えます。昭和38年設立の「秋田工業クラブ」、昭和52年に名称変更して発足した「秋田商工倶楽部」が母体ではありますが、設立時に地域活性化へ向けた政策提言を活動の柱に据え、前身の両組織とは明らかに性格を異にする活動的な集団へと生まれ変わりました。
30年前といえば、折しもバブル経済が崩壊し、株価や地価が急落するなど、日本が長い不況の入口に立ったころでした。変化の激しい時代だからこそ、県内経済人がしっかりと手を携え、社会・経済の諸課題に立ち向かおうー。そんな心意気で生まれたのが秋田経済同友会です。「しなやかな考察と果敢な行動」がモットーです。そうした創立時の志を、強くかみしめるときが、まさに今、到来しております。
先ほども申し上げましたが、経済や社会基盤の根幹をなす人口の減少率が全国ワーストというのは、ゆゆしき問題であります。秋田経済同友会が発足した時に121万5千人だった県人口は、ことし5月1日現在で90万1,447人と、90万人割れが目前です。
少子化も顕著で、昨年1年間に生まれた子供の数はわずか3,907人です。出生数がピークだった戦後の第一次ベビーブームには、年間4万8千人もの子供が誕生していたことを思えば、隔世の感があります。
秋田経済同友会は、人口減少対策を最優先課題と位置付け、私どもの本分であります政策提言につなげるべく、各委員会で議論を始めております。第1弾として、地域と農業を考える委員会が、農業従事者が著しく減少している実態を踏まえ、「人口減少下における、持続可能な秋田県農業の構築に向けて」と題した政策提言の原案を作成し、公表に向けた準備を進めております。
これに次ぐ政策提言を第二弾、第三弾と世に送り出す予定です。「若者の県内定着や回帰を促すために、企業や地域社会は何をすべきか」「若い世代が仕事と子育てを両立させるために、私たち企業に実現可能な働き方改革とは何か」「現在より少ない人口でも、多様性に富んだ成長ある企業をどう構築すべきか」の三項目を軸に現在、各委員長らと協議を進めております。経済人自らが実践し、県民の共感を得ながらムーブメント化するような提言を目指すつもりです。
秋田県は、風力、水力、地熱、バイオマスを軸に、再生可能エネルギーの製造拠点化を目指しております。これから建設が本格化することになる洋上風力発電は、サプライチェーンの構築や再エネ工業団地への企業誘致など、取り組み方次第では、本県の産業、経済に劇的な変化をもたらすと期待されております。
製造拠点化を目指す先にある秋田の明るい姿を県民と共有しながら、秋田が抱える諸課題の解決に向けて、少しずつでも前進していこうという機運を醸成していくことが、今の秋田には最も大切なことです。
さて本日は、湯沢市を中心に本県に製造拠点を持つ精密部品メーカーのObray株式会社代表取締役で、昨年8月に当会に入会されました並木里也子さんに、「未来を築くサステナブルな企業 秋田から世界への挑戦」と題して特別講演をしていただきます。
並木さんは、本社機能の一部を東京から湯沢市に移す準備を進めており、今を「第二の創業」と位置付けております。有能な経営者であると同時に、スノーボードの日本代表としてワールドカップ出場のご経験もある方です。本日は秋田の「持続可能性」を考える上でも、大変タイムリーな演題であり、拝聴を楽しみにしております。
女性活躍の推進を標榜する団体らしく、秋田経済同友会は女性会員の増強策を積極的に進めております。本日は理事・監事、常任幹事選任案など人事案件を含む6議案を上程しておりますが、常任幹事選任案には二人の女性候補が名を連ねております。ご審議のほどよろしくお願いいたします。
(2024年5月28日 通常会員総会)