講演会「再生可能エネルギーと水素利用~なぜ水素社会が必要なのか~」が4月7日、秋田キャッスルホテルで開かれ、会員40人(代理を含む)が出席した。県産業技術センターの上級主席研究員(兼)企画事業部長の遠田幸生氏が、県内の再生可能エネルギーの現状や洋上風力、水素の製造と利用の課題、今後の取り組みなどについて語った。
講演会は昨年12月に佐川博之、斉藤永吉、平野久貴の3代表幹事が菅義偉首相に、脱炭素社会の実現に向けて秋田県が官民一体となって運動を進めることへの理解と後押しを求める要望書を提出したことを受けて開催した。初めに、佐川代表幹事が「水素の基本を学びつつ、それを秋田県でどう生かせるか。それによってどういったメリットが生じるかなどを皆さんに考えていただく契機にしたい」とあいさつ。引き続き、遠田氏が講演した。主な内容は以下の通り。
1.なぜ再生可能エネルギーが必要なのか
これからは今までに経験したことのない豪雨や
洪水、巨大台風、異常な暑さなどが次々に発生す
る可能性がある。また、地球温暖化が豪雪を強め
る可能性や、寒波と豪雪の関係性が明らかになっ
ており、異常気象と炭酸ガス排出による地球温暖
化についての研究が進んでいる。
2.炭酸ガス排出について
二酸化炭素ガスは熱を遮る性質があり地球温暖
化を招く。2015年12月に20年以降の国際的な温暖
化対策の枠組みとして「パリ協定」が採択されて
いるが、日本の流れが大きく変わったのは、昨年
10月26日に行われた菅総理の初めての所信表明演
説だった。「わが国は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。2050
年、カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言いたします」。これ
を受けて、同年12月には経産省が関係省庁と連携し「2050年カーボンニュートラルに伴
うグリーン成長戦略」を策定。菅政権が掲げる「経済と環境の好循環」につなげるため
の産業政策を打ち出した。
3.秋田県の再エネの現状
県内発電量の電源構成は「石炭+石油」で約81%、「風力+太陽光+水力+バイオマ
ス」(再エネ)で約18.4%。ちなみに、本県では県内需要の約2倍の電力を発電してお
り、県内の電力をすべて再エネで賄うとすると、再エネの割合は約35%となる。
県内の風力発電は昨年5月時点で311基、64.4万kw。3年連続で全国最多となってい
る。また、県内の再エネの43.6%を占める水力は、発電所が59カ所あり、そのうち17カ
所が小水力発電所(1,000kw以下)。さらに、地熱発電所は鹿角、湯沢両市で4カ所
あり、総発電出力は全国第2位となっている。このほか、メガソーラー(出力1,000kw
以上の太陽光発電所)は、約14万kwが運転開始している。バイオマス発電所は県内7
カ所あり、新規発電所の事業化促進を図っている。
4.洋上風力の可能性について
県は港湾区域における洋上風力発電の先行的な導入を目指し、国のマニュアルに基づ
き、秋田港と能代港における適地を設定するとともに、発電事業者を公募により選定。
全13社のうち県内は7社。また、県沖の促進指定区域における洋上風力発電の事業計画
は、報道されているだけで計約600万kw(約743基)。
5.なぜ水素エネルギーが必要なの
風力発電は出力ゼロのときがあるし、太陽光は夜間に発電できない。安定化させるた
めには蓄電池、水素等電力を貯蔵する媒体が必要になる。蓄電についてみると、風力と
太陽光はすぐ使用するには効率が高い。ただし、貯蔵できるものの時間がたつと放電す
る。また、大型化した場合は移動が難しい。
一方、水素は余剰の電力で水素を作り、電力不足のときに発電に使用することができ
る。長期貯蔵も移動も可能。燃料電池自動車や燃料電池バス、燃料電池フォークリフト
等に利用可能である。ただし、電力で水素を作り、また電力に変換するので効率は低く
なる。
水素は環境に優しいクリーンエネルギー。水を原料として世界各地で製造することが
できる。水素そのものに色はついていないが、グリーンやブルー、グレー、イエローな
どの呼び名がある。二酸化炭素回収、貯蔵プロセスの過程で生成されるブルー水素が大
きな流れになっている。
さらに、水素はその特性を利用して石油・石油化学業界やアンモニア製造など多くの
産業用途で使用されている。また、将来的にはエネルギーとしての利用が期待されてい
る。
6.水素はどういうところで使用されている?
石油精製では製油所内での水素製造量が消費量を上回り、余剰水素が生じる。また、
石油化学業界では、水素化反応を利用し、洗剤や香料など油脂誘導体製品を製造してい
る。さらに、アンモニアは水素と窒素を、鉄触媒を使って反応させ製造している。
一方、圧縮水素がガラスや金属、弱電の分野で使用されているほか、宇宙開発や航
空・車両燃料としては液化水素が使用されている。
7.水素はどうやって作る?
水素は水電解や、天然ガス(メタン)や石油、石炭に含まれる炭化水素からの製造が
主流。メタンガスから水素を製造するプラントは数多くの実績があり、アンモニア製造
用としても実用化されている。
また、水酸化ナトリウムやコークス製造に伴う際、付属的に製造される水素(副生水
素)もある。
8.水素利用の課題について
水素は運びにくいことが課題。効率的に運ぶ方法として、液体水素や有機ハイドライ
ド、液化アンモニア、水素吸蔵合金などが提案されている。水素は液体にすると、約
800倍多く運ぶことができるが、マイナス約253℃にする必要がある。高圧ガスによる水
素の輸送、貯蔵が研究されている。
9.水素キャリアについて
水素をマイナス約253℃まで冷却することで液化させ、輸送・貯蔵を行うことは、従
来はロケット用燃料として用いられてきたが、近年では工業用の水素輸送方法として普
及している。ただし、液化には大規模な設備が必要となるため、設備コストが高まる。
有機ハイドライドによる水素の輸送・貯蔵については、水素をトルエンに化合させて
メチルシクロヘキサンの形にして輸送・貯蔵。需要地で脱水素して水素を活用するもの
で、実用化段階に達しつつある。
液化アンモニアによる水素の輸送・貯蔵については、アンモニアが水素キャリアで他
の手段よりも水素を濃い密度に含む。また、エネルギーキャリアであるだけではなく、
燃焼時にCО2を発生させない。さらに、アンモニアは広く流通しているので一貫した
技術が十分整備されているという特徴がある。
10.秋田県の取り組みについて
▽県が千代田化工建設と連携協力協定を締結(平成26年)▽県水素課題研究会の発足
(27年)▽「秋田コンソーシアム」設立(28年)▽県水素エネルギー導入可能性検討会
(29年度)▽環境省「地域連携・低炭素水素技術実証事業」(平成30年~令和3年度)
▽NEDО調査事業(平成31年~令和2年)-などが挙げられる。
再生可能エネルギーの中で、風力発電は今後の進展が期待されており、秋田県では既
に、風力発電の設備容量が全国1位になっている。風力発電を利用した利益をもたらす
仕組みづくりができれば、全国の地域創生のモデル事業となり、地域活性化と水素利用
の促進が期待できる。
11.秋田で何をすれば良いか
秋田カーボンフリーポート構想を紹介する。
丸紅、関電ソリューションが秋田港の石炭火力発電所検討地としている工業用地が
あり、計画は延期中であるが、そこを水素製造拠点とし、製造と利用の両サイドから
の実証を行う。電力は洋上風力の余剰もしくは風力を新規に建設、再エネからの系統
電力を使用。民間が出資した調査会社を設立する。資金は洋上風力の基金、国の補助
金、民間と県が出資する。
また、一般海域での洋上風力を生かし、CО2フリーの工業団地を造り、企業を誘
致してはどうか。
12.カーボンプライシング(炭素の価格付け)について
化石燃料に課金や課税をし、温暖化ガスの削減を目指すカーボンプライシングは、
企業の脱炭素の取り組みを促す狙いがある。日本は2050年に温暖化ガス排出量を実
質ゼロとする方針を打ち出した。政府のグリーン成長戦略に盛り込まれている。
13.最後に
再エネを活用して秋田を活性化しようという意識を持つことが大事。意識のある
方々が集まり、意識を共有してベクトルをそろえ、実証試験等を重ねていくことで、
点が線となり面となる。それが大きなうねりとなっていくのではないか。
カーボンプライシングにより化石燃料が高騰し、仮に水素と同価格になれば、大手
が参入し県内企業が入り込む余地は狭まってくる。今のうちに、国の補助金を使い技
術を蓄積することが必要だ。そのためにオール秋田で知恵を出し合いたい。
講演後、出席者からは①化石燃料が高騰し仮に水素と同価格になるのは、いつごろと
みているのか②県の今後の計画、動きについて③地方レベルで水素製造に前向きなとこ
ろがあるか―などの質問が出された。これに対し①まだ分からないが、できるだけ早く
オール秋田で動き出したい②再エネについてはこれまでは管理が主だったが、今春から
は活用も視野に入れている。今後新たな計画が出るだろう③山口県宇部市、経産省管轄
の福島県浪江程度か。少ないうちに秋田が取り組むべきだ―などと答えた。
(文責:事務局)