人口減対策で提言へ 経済人が自ら実践
一般社団法人・秋田経済同友会は5月28日、令和6年度通常会員総会を秋田市の秋田キャッスルホテルで開いた。令和5年度活動報告・決算、令和6年度活動方針・予算、役員(理事・監事)選任、常任幹事選任の6議案を原案通り承認した。
総会には会員152人のうち130人(委任状63人含む)が出席。佐川博之代表幹事が「秋田経済同友会は人口減少対策を最優先課題と位置付け、政策提言につなげるべく各委員会で議論を始めている。第1弾として『人口減少下における持続可能な秋田県農業の構築に向けて』と題した政策提言の原案を作成し、公表に向けた準備を進めている」とあいさつした。また、「若者の県内定着や回帰を促すために、企業や地域社会は何をすべきか」「若い世代が仕事と子育てを両立させるために、私たち企業に実現可能な働き方改革とは何か」「現在より少ない人口でも、多様性に富んだ成長ある企業をどう構築すべきか」の3項目を軸に、第2弾、第3弾の提言作成に向けて各委員長らと協議を進めていることを報告し、「経済人自らが実践し、県民の共感を得ながらムーブメント化するような提言を目指す」とした。
さらに、風力、水力、地熱、バイオマスを軸に、再生可能エネルギーの製造拠点化を目指している本県の将来を見据え、「これから建設が本格化する洋上風力発電はサプライチェーンの構築や再エネ工業団地への企業誘致など、取り組み方次第では、本県の産業、経済に劇的な変化をもたらすだろう。その先にある秋田の明るい姿を県民と共有しながら、秋田が抱える諸課題の解決に向けて、少しでも前進していこうという機運の醸成が、今の秋田には大切だ」と述べた。
議事は、斉藤永吉代表幹事が議長を務め、議事録署名人に高田眞千、川越恵次の両氏を指名した。令和5年度活動報告案と決算報告案は鹿川公利専務理事が議案書に沿って説明。今野邦義監事が4月17日に行った会計監査について「業務執行は適正で、計算書類も財産の状況を正しく示している」と報告。2件を一括審議し、拍手で承認された。6年度活動方針案については各委員長が提案し、創立30周年記念事業などを盛った予算案とともに了承された。主な活動方針は「農業従事者の減少を見据え、スマート農業の推進などに向けた提言」「地域産業を活性化するための教育プログラム構築の検討」「スポーツを通じた地域づくりと交流人口拡大」「日本文化に理解を示し、日本語能力を持ち合わせる外国人定着の促進」「2025年に秋田市で開く経済同友会東北北海道ブロック会議の準備」など。
役員の選任は、任期満了で退任する湊屋隆夫理事の後任に新谷明弘・秋田銀行頭取を新任するとともに、7人の理事と監事2人を再任する案を承認。常任幹事の選任は、井上さおり秋田魁新報社取締役、清水隆成清水組社長、松田悦子松田社長の3人を新任し、19人を再任する案が拍手で承認された。いずれも任期は2年。また、総会後の理事会で新谷理事を副代表幹事に選んだ。
特別講演会では、当会会員でもあるOrbray(オーブレー)の並木里也子社長が「未来を築くサステナブルな企業 秋田から世界への挑戦」と題して講演した。
オーブレーは、アダマンド並木精密宝石から昨年、社名変更。精密宝石部品や光通信部品、ダイヤモンド基板などを製造し、2023年12月期の売上は244億円。湯沢市や横手市などの東北各地とタイに生産拠点を構え、営業拠点は東京のほか、アメリカやドイツ、シンガポールにも置いている。2025年に湯沢商工高校跡地などを取得し、新工場を建てて国内事業を強化する方針で、2026年には、本社機能を東京から湯沢市に一部移転することを公表している。並木社長は創業家の3代目。スノーボード全日本選手権の覇者で、ワールドカップ選手として世界各地を転戦したアスリートでもある。
講演は「唯一無二のものづくり」「挑戦と変革のストーリー」「安心安全なまちづくり」の構成で展開。同社のルーツは「時計などの軸受け」製造にあり、ウオークマンやポケットベルには、同社の小型モーターが使われていた秘話も披露した。今後はダイヤモンド半導体の製造に力を入れていくことを紹介した。秋田を製造拠点に選んだ理由としては「寒い冬を耐え忍び、コツコツ真面目にものづくりをする『雪国気質』」を挙げた。業績が一時低迷したものの、2021年度からV字回復していることを紹介し、その背景には前年に始めた経営改革があると指摘。改革の内容は、構造改革ではなく、「社員のモチベーションを高めることに努めた」と強調した。具体的には▽社長自ら3年半かけて行った国内全社員千人との個別面談▽スキー教室や座談会など社員交流行事の開催▽女性社員100人を対象とした教育研修セミナーの実施▽メディアへの積極出演による会社認知度のアップ▽非正規社員を含めた社員の待遇改善▽非正規社員57人の正社員登用▽2022年以降続けている新卒大量採用(年間30人超)-が功を奏していると分析した。また、人と組織が成長する会社になるために「オーブレーアカデミー」を開講していることを紹介し、全社で「学ぶ風土をつくっていく」と述べた。
今後の設備投資計画としては、湯沢市の成沢工業団地と旧湯沢商工高校跡地の計5万平方メートルを取得。新工場を建てて生産能力を高めるほか、そこに海外向け事業やコンプライアンス部門などの新しい部署を置く形で本社機能を移す経営戦略を披露した。最後に、自治体と共に「まちづくり・まちおこし」などの地域貢献活動を継続して、「秋田と共に未来に向かっていきたい」と締めくくった。
懇親会には、来賓を含めて80人が出席。平野久貴代表幹事があいさつした後、猿田和三・副知事と柿﨑武彦・秋田市副市長が祝辞を述べた。伊藤満副代表幹事の発声で乾杯。懇談の合間に、1月以降に入会した会員6人がステージに立って挨拶。中締めは、新谷明弘副代表幹事が務め、盛会の中でお開きとなった。
新しい理事、監事、常任幹事は以下の通り(敬称略)。
代表幹事(理事) 佐川博之、斉藤永吉、平野久貴
副代表幹事(理事) 伊藤満、鈴木信夫、西村幸彦、新谷明弘
専務理事(事務局長) 鹿川公利
監事 今野邦義、平野敬悦
常任幹事 石井広樹、石黒寿佐夫、伊藤久一、大友進、小野泰太郎、小畑宏介、
片桐大地、加藤俊介、神成俊行、後藤敬太、佐々木創太、白石光弘、
田口清光、竹島知憲、立田聡、千葉利昭、藤澤正義、松村讓裕、
涌井徹 (以上19人再任)、
井上さおり、清水隆成、松田悦子 (以上3人新任)